アンドレが生まれた年月から逆算して、懐妊の月は見当がつく。しかし、その月に国王は隣国へ出征していた。

 アンドレが早産だったという記録はない。
 ずっしりした健康的な赤子だったと記されていたことから、妊娠発覚から出産までが順調だったと分かる。

 ここから導き出される結論は、一つ。

「国王陛下の父親は、前王ではなかったということですか?」

 いぶかしげに宮廷録をのぞき込んでくるバルドに、ラウルは神妙に頷いた。

「アンドレが生まれた前後三年分の宮廷録が紛失していた理由も、これで説明がつく。現国王に前王の血が流れていない可能性を読んだ者に気づかれる危険があったからだ。この時期の宮廷録は、そのまま王太后の不貞の証拠になりえる」

 宮廷録を抜き取った対象は、ほぼ定まったようなものだった。

 国王を裏切った王太后、そして王太后と密通していた男のどちらか。
 もしくは両方だろう。

「まずいな……。敵に回すには大きすぎる」

 王太后はいまだ社交界に影響力のある人物だ。
 破天荒な人物ではあるのだが、そんな彼女に魅力を感じている貴族は多い。

 国内外の有力者との交流もあるため、半端に指摘したくらいでは若造のラウルが吹き飛ばされて終わりだろう。

 ルフェーブル公爵家の進退にも関わる。

 宰相である父の采配と、アンドレの代理として国政を動かしているラウルが結託して保たれているフィルマン王国の形が、不貞を暴いたことで急転する可能性があるとすればうかつに手を出せない。

 どうするか考えていると、コンコンと控えめなノックが響いた。

「どうぞ」