シュゼットも足跡と同じく宮廷録の前で立ち止まった。

 深緑色の分厚い書物は、隊列を組んだ騎士のようにお行儀よく並んでいたが、ちょうどエリック・ダーエ――ラウルに頼まれた三十年前から六年の間の分だけ隙間がある。

(おじいさまは文官らしい几帳面な方でした。紛失するはずがありません)

 本棚の間を歩き回って、どこかに紛れ込んでいないか探すが見つからない。

「どこかにあるはずです」
『何を探しているんだね?』

 学者のように規律正しい話し方で、肖像画が語りかけてきた。
 書庫の壁にはいくつかそういう額があって、どの絵がしゃべったのだろうと視線を泳がせていると、

『ここだ、シュゼット。まさかおじいさまの顔を忘れてしまったのかね』

 祖父の肖像画から声が聞こえた。
 やせて目の下がくぼんだ老人の絵に、シュゼットは令嬢らしいカーテシーを見せた。

「お久しぶりです。おじいさまのことはちゃんと覚えております。家族の中で私に優しくしてくれたのはおじいさまだけでした」
『辛い思いをしたのだね。だがもう大丈夫だよ。わたしがお前の力になろう』
「ありがとうございます!」

 この言葉は、肖像画が意思を持ってしゃべっているに過ぎない。
 祖父本人の言葉ではないのにちゃんと祖父の声で聞こえるから、シュゼットは柄にもなく感動してしまった。

「おじいさま、宮廷録の一部がなくなっているのです。どこに移されたのですか?」
『なくなった宮廷録は知らないな。だが、隠す場所は分かっている。お前も知っているはずだ』

「私もですか?」