シュゼットは焦った。
 らしくない大声を出したので、ラウルはぎょっとしている。

(物と話せる力は秘密にしなくてはならないんです!)

 薔薇に話しかけたのはリシャールを助けたい一心からだったが、彼からラウルに伝わるとは予想外だった。

 異能を受け入れてくれる大人は少数だ。
 堅物のラウルに受け入れる度量があるとは思えなくて、シュゼットは胸のうちで震えた。

 もう実家で受けていたような扱いは嫌なのに、このままでは逆戻りだ。

「部屋に戻ります」

 布袋の上に手をついて立ち上がった。
 その拍子に、原稿が崩れてずるっとすべる。

「あ……」
「王妃様!」

 倒れかけた体をラウルが抱きとめてくれた。

 原稿用紙がバサッと床に落ちる。
 それと同時に、白くかすんでいた視界が晴れる。

 ベールがシュゼットの頭から落ちたのだ。

 さえぎるもののなくなった視界には、ラウルの宮廷服の胸ポケットに差し込まれた万年筆が映る。
 碧色の軸は大理石のようなマーブル模様で、キャップは金色。シュゼットがエリックから贈られた物と色違いだった。

 万年筆を見つめるシュゼットの真上から、驚いた声が降ってきた。

「シシィ……?」