はっと顔を上げる。

「大丈夫? 顔色が悪い」

「う、うん、平気。おばさん、私ね、花梨ちゃんの事故を振り返ろうとすると」

 おばさんへ小刻みに震える指を見せた。

「こんな風になって、霧が掛かったみたいに頭が真っ白になるの」

「えぇ、おばさんも同じ。嵐が来る度、あの日が思い返されて苦しくなるわ。奈美ちゃん、西園寺さんの事を知りたいのよね?」

「知りたい」

 私の手を上から包み、おばさんは会話に間を作る。言葉を選び、伝わりやすく構築するところは修司に似ている。

「修司は奈美ちゃんが忘れているなら、そのままで良いって言ったんだけどね。おばさんはフェアじゃないと思うから」

「フェア?」

「奈美ちゃんの自分を律する性格、おばさんも尊敬している。でも、充分。これ以上、過去に縛られないで欲しい。奈美ちゃんの人生を自由に泳いで欲しい」

 日記帳の白いスペースを使い、おばさんが真実の相関図を描く。登場人物は西園寺前社長と母、私達三人、それとーー。

「西園寺さんの息子、晴臣君が島へやってきたのは丁度今頃の季節ね。彼は奈美ちゃんのお母さんに会いにきたみたい」