『落ち着きましたが、引き続き予断を許さない状態です』

 本土の病院に到着するなり母は手術室へ運び込まれる。幸い、処置が早かったので一命を取り留めたがこのまま入院する事となった。

 約一時間半ほど息の詰まる思いをし続け、診断を聞き終えた後ふらつく。

「良かった……はぁ」

 パイプ椅子へ崩れ落ち、指を編む。長く吐き出す緊張で前髪が揺れている。担当医は修司ともう二、三言ほど会話して退出していった。

「安心しきるな、先生が言った通り予断は許さないぞ。島の設備じゃ、おばさんを助けられなかったかもしれない。この機会に転院しないか? 俺、ここの医院長と面識あるんだ」

 前々から修司は本土での治療を勧める。

「私も大きくて立派な病院だと知ってる。看護師さんも沢山居て、お母さんを安心して任せられそうーー」

 だけど、と難色を示す。

「お母さん、島が好きなの。島から出たがらないと思う」

 転院すれば病状が回復するのなら是が非でもアクションを起こそう。しかし、大病院の施設をもっても延命が精一杯なのだ。

「今日みたいにお母さんを失うかも知れない場面になると怖くて仕方ないよ。覚悟しているなんて口だけなの。修司が付き添ってくれなかったら、私、どうなっていたか」

 ありがとう、ほぼ息で構成されたお礼を告げる。

「奈美は医者じゃねぇからな、取り乱して当たり前だって。気にするな」

「お医者さんって凄いね、いつもこんな恐怖と向き合っているんだもの」