同行者が晴臣さんや坂口さんじゃないと助かる。事情はどうあれ、二人からしたら私は逃げ帰った風に映り印象は良くない。合わす顔がない。

(でも、もし晴臣さんが来たらーー)

 合わす顔がないくせに晴臣さんも揃って母の元に来てくれたら、つい思い描いてしまう。

「奈美!」

 背後で呼ばれ、ハッと我に返る。

「ごめん、ごめん、ちょっと考え事をしてて。ちゃんと洗うから」

「そうじゃなくて」

 修司は蛇口を閉め、私の両肩に手を乗せた。わずかにその手が緊張しているような?

 排水口へ水が吸い込まていく音を背中で聞き、言い淀む修司を見上げる。

「どうしたの? 顔色、悪いよ?」

「奈美、落ち着いて聞くんだぞ」

「何よ? 改まって」

「ーーおばさんの様態が急変したそうだ」

「え?」

「これからドクターヘリで本土の病院へ搬送する。奈美、支度をしろ」

 ゆっくり大きな口で伝えられても理解が追い付かず、ひたすら修司を見詰めてしまう。

「や、やだなぁ、修司ってば冗談きつい」

「俺は医者! こんな不謹慎な冗談なんか言わねぇよ! 奈美、支度をするんだ!」

「いや、だって、だって……お母さんが、晴臣さんがお見舞い」

「は、見舞い? こんな時に何を言ってる? あぁ! とにかく行くぞ!」

 手を引かれた途端、足から力が抜ける。その場へ座り込んでしまった。

(お母さんが? 嘘、信じられない、信じたくないよ)