「そうだなぁーー単純に奈美が好きだから、かな。この僕がずっと想いを寄せている相手だよ? 最高の女性であるのは疑いようがない」

 紅茶を含み、出来栄えに満足する。

「はぁ、なんと返したらいいやら。ご馳走様です」

「まだお茶を飲んでいないのにその挨拶は早いだろ。はい、どうぞ」

 坂口の分を進め、もう一言添えておく。

「公私ともにこれからも宜しく頼む。頼りにしているよ」

「結城さんへ厳しい指摘をしたって知ってるくせ、責めないんだな?」

「それは今から坂口が奔走してくれるのを期待しているからだ。さっそくだが見合いを断っておいてくれ。それと奈美の母親が入院している場所を教えて欲しい、あとはーー」

 坂口はカップを持たない方で制止する。

「ストップ、ストップ! 忙しくなるんだったらお茶くらい静かに飲ませてくれないか」

「はは、確かにその通りだ」

 黙ると頷き香りを楽しむ所作をし、頷く。

「……あぁ、貴方の淹れるお茶は美味しい。改めて三人で飲みたい」

「カクテルでもいいぞ。昨日久し振りに作ってみたんだ、ブルームーン」

 シェイカーを振る真似をしてみせたところ、頼れる兄貴の顔をされた。

「ブルームーン、ね。またベタな口説き方を」

「言うなよ、坂口直伝の技じゃないか。ブルームーンのカクテル言葉、覚えている?」

 それは『完全なる愛』もしくは『叶わぬ恋』である。

「言っておきますが、貴方に叶わない恋などしている暇はないですよ?」

「お、秘書モードに入ったな。もちろん。さっさとこれらを片付けよう」

 坂口という優秀な秘書かつ心強い親友と、奈美が揃えば父を越えていける。そんな希望を感じさせる朝だった。