「結城さんが治療費を名目に金銭援助を求めてきたらどうします?」

「する。奈美が困ってるなら協力する」

 即答した。案の定、坂口は目を剥き、怒る。

「お金目的ですよ? 金づる扱いされていいんですか? 西園寺の御曹司が?」

「プライドを捨て、札束積み上げて自分の女に出来るならとっくにしてた。残念ながら彼女は金の力じゃ靡かないし、僕だって金で物をいわすのは好まない」

 中断していたお茶を淹れる動作を再開しよう。思考を整え纏める場合、決まった動きをするとよい。

 まずポットとカップを温めておく。

「奈美はあんなに美しいんだから引退後も表舞台に居られたはず。だが島へ戻り、身を潜めるように生活していた。それは多分、僕のせいでもある」

 次にポットへ茶葉を入れ、お湯を注ぐ。

「ーーは? 申し訳ありませんが何を仰ってるのでしょう?」

「はは、分からないよな? わざと分からないように言ってるんだ。これは僕と奈美、それから朝比奈兄妹の問題。いい加減決着をつけないといけない」

 茶葉を蒸らす。それから紅茶をカップへ淹れた。立ち昇る湯気越しに僕は微笑む。

「つまり何をするかは教えて頂けないと? 本件は部外者なんですね、私」

 ここで言葉を切り、間を作る坂口。

「とにかくスキャンダルは勘弁して下さい」

 諦めた風に肩の力を抜くとソファーへ腰掛けた。

「一つだけいいか? 友として後学の為に聞いておきたいんだが」

 足を大きく開いて項垂れる彼が友達口調に戻る。

「どうぞ」

「どうすればそこまで心酔出来る? なんで金やステイタス目的じゃないって断言する? そんな真っ直ぐに信じられると、釘を刺した私が間違っている気になるじゃないか」