「若い頃の前社長とーー恐らく結城さんの母親でしょう。それから“人魚の涙”も写っていますね」

 こちらです、坂口の神経質な指が該当箇所を弾く。

「“人魚の涙”ね、父が特別な場面でしか身に着けない装飾品。二人が親密であるのを証明してるがこれが何? まさか僕と奈美が兄妹だとか言い出さないよな?」

「えぇ、言いませんとも。貴方の事なのでその辺りは確かめたのでは? 学生の頃にご自分のルーツを探す旅をしていたと記憶しております。この島に来るのも初めてではないでしょう」

 坂口は秘書であり親友。長い付き合いなので奈美への想いを語る機会も少なくないが、一番大切な記憶は宝箱に入れて誰にも触らせない。

「……そう、中学生の時分に来てる。奈美は忘れてるが僕等は出会っているんだよ。会社を継ぐタイミングで再会を計画し、嵐で足止めされなくともスキューバダイビングを理由にして島へ寄るつもりだった」

 写真を見つめ、やはり血は争えないと痛感せざる得ない。父が愛した女性の娘にこんなにも焦がれるなんて。運命? それとも呪いか? どちらにせよ僕の心を掴んで離さないのなら共に歩むしかない。

 皮肉にもここに写る父は僕や母に向けてこなかった笑顔を浮かべ、とても幸せそうだ。