見合い写真を開く気は起きない。突っ返そうとしたが、無理矢理押し戻される。

「冗談? こちらの台詞です。初恋相手と寝て思い残す事ないでしょう? 結城さんは西園寺グループを率いるパートナーに相応しくない。彼女も重荷に感じるはずです」

 こんな小言が言いたくて朝から呼び出されたのか、頭が痛い。

「利害の一致のみで結ばれた両親がどんな結婚生活を送ったか、坂口も知ってるだろう? 仕事面での父は尊敬するがプライベートは出来ない。僕は愛のない結婚などしない、一人の女性を生涯愛し続けるよ」

「ですから結城さんがそのお相手だと本気でお考えですか? 恋人がいながら関係を持つのに? 西園寺の名を利用されるのが何より嫌いな貴方が結城さんを選ぶのは矛盾してませんか?」

 坂口が更に書類を足す。

「彼女の身辺を調べたのか?」

「貴方が初恋を原動力にして頑張ってきたのを悪くは言いません。しかし、初恋とは実らないから美しいのではないでしょうか? どうせ飽きると踏んでいましたが……恋は盲目と言えど度が過ぎます」

 西園寺の力を持ってすれば個人情報は容易に集められる。僕がマーメイドダイバーズへ接触した時点で調査が開始され、知らない奈美が記載されていた。

 ただ彼女の口から語られない経緯など興味がわかず、すぐさま裏に伏せる。

「これは奈美にも伝えたが、母親を見舞って欲しいというのが、僕を利用する事になるのか?」

「こちらをご覧下さい」

 次は写真を差し出してくる。濡れてシワになった一枚を受け取った。