目の前には処理待ちの資料がこんもり積まれ、隣で秘書の坂口が腕を組む。

「はぁ」

 彼の溜息が一番上の紙が舞わせ、それをキャッチしながら着席する。

「わざわざプリントアウトせずともデータで送信すればいいのに。時代はペーパーレスだぞ」

「可視化した方がご自分の立場が把握しやすいかと。ところで昨夜はお楽しみお楽しみでしたね」

 父が社長の座を退く事でこの椅子が自動的に回ってきた訳じゃない。坂口と二人三脚で寝る間も惜しみ、西園寺の後継者として認められるよう勤めてきた。いや、今なお勤めている。父は会長とし今後も会社に関わる予定だ。

「茶化すな、勤務時間外の行動をとやかく言われたくない。第一ここにある案件は特別急ぎではないだろう? はぁ、自分が恋人がいないからって妬くなよな」

「妬いてなどいません。繰り返しますが、お立場を自覚して下さい」

「立場、立場って……分かってるさ」

 船室の一つを仕事部屋にしてある。勇退クルーズに同行しながら日々の業務を行う負担は大きい。坂口がナーバスになるのも仕方がない、か。

 気分転換にお茶を淹れてやろうと思う側、山の中に異質な紙質を見付ける。

「お見舞い写真ですよ」

「見合い写真?」

「クルーズ中に婚約発表というのも宜しいのでは?」

「……おいおい、冗談言うな」