「奈美、キス、して」

「……起きてるんじゃないですか?」

「んー、まだ眠い。お休みのキスして、奈美」

 腰に巻きついてくる。

「細いな。身体、大丈夫? 壊していないか心配だ、抑えがきかなかったから」

「これでも元アスリートです。簡単に壊れたりしませんよ」

 まだ眠いのは本当らしく瞑ったままやりとりして、大型犬みたいに甘えてきた。

 一体、何人の女性がこんな無防備な晴臣さんを知っているのか数えそうになり、やめておく。

「顔、上げてください。これじゃあキスが出来ませんよ?」

「んっ」

 彼は素直に顔を上げて促す。私は薄く開きかけた唇へ指を押し当てて警戒する。

「深いのは駄目ですからね」

「何故?」

「何故って……沢山したじゃないですか?」

「おや? 元アスリートが音(ね)を上げるの?」

「そういう揚げ足取りをする人にキスはしませーーきゃ!」

 バサリッと翻る音が私をさらう。再びシーツの海へ投げ出され、二人で酸素を分け合った。一晩かけて躾けられた舌は彼好みのダンスを踊り、積極的に絡めていく。

「はは、おやすみのキスのはずが目が冴えてしまったな」

「ん、もぅ、だから駄目って言ったじゃないですか」

「ごめん、ごめん。そこでだ、もう一度、駄目?」

 青い瞳が尋ねてくる。

「あ、朝ですよ?」

「奈美を愛するのに朝も昼もない」

「……晴臣さんって意外と甘え上手ですね」

「貴女にだけだよ。もう一度したら寝るから、ね? 約束する」