修司の名を出され、どんな顔をすれば良いか分からなくなる。唇を噛むとそれを咎めるキスをされた。

「ん、っふ、晴臣さんこそ、キス、たくさん」

「修司君はしなかった?」

「やめ、て、比べることじゃーー」

「駄目、比べて。比べて僕で上書きするんだよ。貴女の心から他の男なんて追い出してやる」

 修司とは別れていると言ってしまいたい、でも言ってはいけない。蕩けてどうしようもなくなりそうな気持ちを心の箱へ押し込む。

「奈美、目を開けて? 今から貴女を抱く男の顔をしっかり見て? 結婚をしようとする相手がいるのに誘惑する酷い男の顔を忘れないでくれ」

「晴臣さんは悪くない。私があなたを誘惑したの」

「それならもっと、もっと惑わせてよ。僕は奈美の為なら何でもする。父に頭を下げることなど大した事じゃないし、宝石やドレスも望むだけ仕立てよう。何が欲しい?」

 頬、顎、肩口と唇をスライドさせ、鼓動を食む。
 甘美な囁きとは裏腹、なぶるリップ音が広がった。意識をはぐらかそうとしても、女である自分が湿り気を帯びていくのは明らかだった。

 彼に何処を触られても心地良くて。

 あぁ、宝石なんて興味ない、ドレスも必要ないーー私は目を開けた。

「晴臣さんが欲しい、他は何も要らない」