空腹だから苛立っているんじゃない。純粋な西園寺氏と比べ、自分は汚れていると感じて苛立つ。

 彼が大事に育んできた私への想いに嫉妬する。宝石みたいな恋心を曇らせたい、西園寺氏をこちらの海へ引きずり込みたいと。

「ーーねぇ結城さん、こんな真似しなくてもいいです」

 私は無言で彼の背中へ抱き着く。

「離して下さい」

 シャツを擦って否を示す。腰にも手を回して密着した。

「もう一度言いますよ? 離して?」

「私が要らないなら突き飛ばすなりして。そうしたら諦めます」

「ーーっ、そんな事出来るはずないだろ!」

 勢いよく振り返り、西園寺氏はごくんと喉を鳴らす。

「結城さんーーいや奈美、いいんだな?」

 頷く。

「貴女を欲しがってもいいんだな?」

 頷く。

「それじゃあ、僕の部屋に行こうか。入ったら無事に出してあげられないよ? 本当にいいの?」

 何度も尋ねることで彼自身に言い聞かせているみたいだった。

 一方私は頷くのをやめ、西園寺氏へ身を委ねる。酷い女だと夢から醒めないうち一緒に溺れてしまいたい。

 朝がきて嵐が去れば、この熱を手放さなければいけないと知っているから。