「これ以上、前社長のお祝いの場で騒ぎを起こすのは……私なら西園寺さんが助けてくれたので平気ですから」

「平気なはずないだろう! っ、あぁ、すまない、何よりも先に貴女のお加減を確認しなければいけなかったのに。浮足立ってみっともないな、僕は」

 憤りながら隣席へ戻るなり、西園寺氏は私と膝を突き合わした。

「一応怪我はされてないと報告を受けている。本当? 何処か痛むところは無い?」

「だ、大丈夫です、お酒を呑めるくらい元気ですから!」

「じゃあ、他に何を後ろめたく思う?」

「……」

「もう気付いているはずだよ? 僕が貴女を大切に思っているって」

「西園寺さんは私のファンと」

「そうとも言った。だけどこの距離はそういう近さじゃないでしょう? 結城さんを知りたい、結城さんに僕を知ってもらいたいと伝える近さだ。はっきり言うーー僕は貴女が好きなんだ」

 手を握られ、真剣に想いを告げられる。彼の眼差しは酔いや迷いをちっとも宿さず、わたしを見据えた。

「恋人がいるのは承知している。それでも僕を見て欲しい」

「西園寺さんみたいな人が私なんて。住んでいる世界が違いすぎますし、お父様や坂口さんが反対しますよ? 西園寺さんには良家の女性がお似合いだと思います。私の父は亡くならりましたが漁師でーー」