すんすん鼻を鳴らし匂いをチェック。と、高く通った鼻筋が私に反応した。

「おや、結城さんは良い香りがしますね」

「あぁ、お風呂のおかげですかね。花びらが浮いている浴槽、初めてでした」

「気に入ってくれた?」

「はい」

「それは良かった、貴女が喜んでくれると僕も嬉しい。あぁ、そうだ! 結城さんも呑みます?」

 西園寺氏は席を立ち空いたグラスを持ち、カウンター内へ。

「簡単なカクテルならお作りしますよ」

 たくさん並ぶお酒を背景にして、肩幅に広げた両手を作業台へ置く。

「バーテンダーのご経験があるんですか?」

 彼の事なので何をしても様になりそう。

「経験ってほどではないですが、大学生時代に少々。知り合いが経営するバーでバイトをしました。オーダーは決まりました?」

 シェーカーまで出てくると飲酒を断れなくなる。まぁ、アルコールが少し入った方がこの緊張も解れるかもしれないか。

「私、カクテルに詳しくなくて。お任せしても?」

「お客様をイメージしたカクテルを作らせて貰えるのはバーテンダー冥利に尽きます」

「ふふ、西園寺さんはバーテンダーじゃなく社長でしょう?」

「いいえ、貴女の前では普通の男です。こうして気を引こうと一生懸命になっているじゃないですか」

 慣れた手付きで氷と材料を投入し、シェイクする。小気味よい音が室内に響く。

 BGМがなく、照明も最低限しかついていない環境に既に酔ってしまいそうだ。

「西園寺さん目当てのお客さんでバーは繁盛したのでは?」

「いやいや、僕のような男をパリジェンヌは相手にしません。全員ではないものの彼女等は恋愛もオシャレ感覚、僕とは合わない」

「フランスの学校へ行かれてたんですね」

 じっくり見た訳ではないが、西園寺氏は日本語で綴られていない資料を読み、語学が堪能であるとネットにも書いてあった。

「母方のルーツがそちらにありまして。この目は隔世遺伝なんだ」