■
ラウンジの扉を開けるとカウンターに座った西園寺氏が顔を上げる。ボルドーの絨毯を敷いた店内に彼以外の姿は見当たらない。
「こんばんは」
入口付近から動けず、とりあえず挨拶をしてみる。
「こんばんは、こちらへどうぞ」
「お仕事中では?」
広げられた資料を指摘したら西園寺氏は集めて束ねた。分厚くなった角をコンコンと揃え、視界の外へ置く。
「お忙しいのであれば出直すので」
「確かに暇ではありませんーーので物事に優先順位をつけます。さぁ、こちらへどうぞ」
繰り返し招かれ、おずおず隣の席へ移動する。腰掛ける際、彼は手を貸してくれた。
カウンター席のみで構成された空間は、席数を少なくする事で奥行きを持たせる。
「貸し切りですか?」
「いえ、営業時間外ですね。お呼び立てしてしまい、すいません。どうしても貴女とお話がしたくて。ご迷惑でしたか?」
西園寺氏も着替え、ラフな装い。礼装時とは別の色気があり接し方が分からなくなる。
「迷惑なんて……私も西園寺さんとお話がしたかったので」
「それは嬉しい、どんな話だろう? 謝罪の言葉でなければいいのだけれど」
「え、あ、それは」
「結城さんこそまだ仕事中? 僕の相手をするのも業務の一環?」
まるで面接を受けるように彼と向き合う姿勢を笑われた。
「そういう訳では無いのですが」
「ん?」
西園寺氏は頬杖をつき、こちらを覗き込む。
「ーーもしかして呑んでます?」
「はは、バレた? そんなに呑んでないはずだけど。臭う?」
ラウンジの扉を開けるとカウンターに座った西園寺氏が顔を上げる。ボルドーの絨毯を敷いた店内に彼以外の姿は見当たらない。
「こんばんは」
入口付近から動けず、とりあえず挨拶をしてみる。
「こんばんは、こちらへどうぞ」
「お仕事中では?」
広げられた資料を指摘したら西園寺氏は集めて束ねた。分厚くなった角をコンコンと揃え、視界の外へ置く。
「お忙しいのであれば出直すので」
「確かに暇ではありませんーーので物事に優先順位をつけます。さぁ、こちらへどうぞ」
繰り返し招かれ、おずおず隣の席へ移動する。腰掛ける際、彼は手を貸してくれた。
カウンター席のみで構成された空間は、席数を少なくする事で奥行きを持たせる。
「貸し切りですか?」
「いえ、営業時間外ですね。お呼び立てしてしまい、すいません。どうしても貴女とお話がしたくて。ご迷惑でしたか?」
西園寺氏も着替え、ラフな装い。礼装時とは別の色気があり接し方が分からなくなる。
「迷惑なんて……私も西園寺さんとお話がしたかったので」
「それは嬉しい、どんな話だろう? 謝罪の言葉でなければいいのだけれど」
「え、あ、それは」
「結城さんこそまだ仕事中? 僕の相手をするのも業務の一環?」
まるで面接を受けるように彼と向き合う姿勢を笑われた。
「そういう訳では無いのですが」
「ん?」
西園寺氏は頬杖をつき、こちらを覗き込む。
「ーーもしかして呑んでます?」
「はは、バレた? そんなに呑んでないはずだけど。臭う?」