ラウンジの扉を開けるとカウンターに座った西園寺氏が顔を上げる。ボルドーの絨毯を敷いた店内に彼以外の姿は見当たらない。

「こんばんは」

 入口付近から動けず、とりあえず挨拶をしてみる。

「こんばんは、こちらへどうぞ」

「お仕事中では?」

 広げられた資料を指摘したら西園寺氏は集めて束ねた。分厚くなった角をコンコンと揃え、視界の外へ置く。

「お忙しいのであれば出直すので」

「確かに暇ではありませんーーので物事に優先順位をつけます。さぁ、こちらへどうぞ」

 繰り返し招かれ、おずおず隣の席へ移動する。腰掛ける際、彼は手を貸してくれた。
 カウンター席のみで構成された空間は、席数を少なくする事で奥行きを持たせる。

「貸し切りですか?」

「いえ、営業時間外ですね。お呼び立てしてしまい、すいません。どうしても貴女とお話がしたくて。ご迷惑でしたか?」

 西園寺氏も着替え、ラフな装い。礼装時とは別の色気があり接し方が分からなくなる。

「迷惑なんて……私も西園寺さんとお話がしたかったので」

「それは嬉しい、どんな話だろう? 謝罪の言葉でなければいいのだけれど」

「え、あ、それは」

「結城さんこそまだ仕事中? 僕の相手をするのも業務の一環?」

 まるで面接を受けるように彼と向き合う姿勢を笑われた。

「そういう訳では無いのですが」

「ん?」

 西園寺氏は頬杖をつき、こちらを覗き込む。

「ーーもしかして呑んでます?」

「はは、バレた? そんなに呑んでないはずだけど。臭う?」