船を降りた後も西園寺氏と連絡を取り合う仲になろうとは私も考えていない。

「西園寺に依頼するのですか? 単に父親へ話をするだけとお思いならば、それは違いますよ」

「つまり親子関係が良好ではないと仰っている?」

「私の口からは何とも。しかし結城さんにお願いされたら、西園寺は下げたくもない頭を下げるでしょうね。私は西園寺にそんな事をさせたくないのです、お分かり頂けました?」

 ラウンジが見えてきて、坂口さんは言葉を切る。通路の脇にさっと寄って私へ入室を促した。

「西園寺が中で待っております」

「……お会いしない方がいいんじゃないですか?」

「賢い結城さんはご自分がすべき振る舞いを理解されたかと。お写真はこのまま預かりますね」

 写真を取り返すことも出来たが、それをそのまま西園寺氏に見せると勘繰られるのが嫌。不仲と聞いておいて橋渡しなど頼めるはずない、私だって西園寺氏へ感謝しているんだ。

「私はこれで失礼します。最後の夜をお楽しみ下さい」

 一礼し坂口さんは去っていく。彼が職務に忠実でありつつ、西園寺氏を大切に想っているのが痛いくらい伝わった。

 私は暫く扉の前で迷うも、中へ踏み込む。