「こちらをお見受けするに映っているのは前社長ーーそれと結城さんのお母様でしょうか? 美しい黒髪はお母様譲りなんですね」

 バッグに入れてあった写真が坂口さんの手元にあり瞬く。

「勘違いなさらないで下さいね? 甲板に落ちていたバッグを回収し、持ち主を特定するため中身を拝見しただけです。まさかこんな物が出てくるとは」

 坂口さんは私が西園寺氏に接触する理由が写真にあると断言。そしてここからの推測が真実から大きく乖離する。

「前社長に資金援助をお願いするおつもりでしょうか? それとも個人的な援助を? お母様が前社長と恋仲であったのを利用して?」

「違います! 私は前社長に母を見舞って欲しいと考えただけで」

「あぁ、お母様は入院されているそうですね。本土の医療施設へ転院するよう勧められているとか? 失礼ですが、諸々の費用は結城さんお一人で支払えないのでは?」

 坂口さんは私との間に淡々と言葉を積み重た。金銭をたかりにきたとの見解は酷く心外だが、そう思われてしまっても仕方がない節もあるにはある。

「残念ながらこういうケースは珍しくないのですよ。前社長は恋愛においてルーズで、西園寺も自分の出自に疑問を持った事もあるくらいでして」

 言われてみると西園寺氏の瞳は青い。テレビで見た限り、西園寺夫妻は日本人であったと記憶する。