「宜しければラウンジでお話をしませんか?」

「ラウンジ……私、こんな格好ですが」

「充分素敵ですよ。仮に結城さんへ服を用意したと耳に入れれば、西園寺は躊躇せず私を嵐の海に突き落とすでしょう。お恥ずかしい話ですが私、泳げないんです」

 本心を掴ませないトークで私を部屋から誘い出す。これも秘書の術かもしれない。にこにこ笑顔を絶やさないものの、それは西園寺氏の指示があってこそ。

 彼のエスコートを直感的に避け、二、三歩下がってついていく。

「先程、警報が発令しまして。結城さんには先程のお部屋でお過ごし頂くことになります」

「……何から何まですいません」

「いいえ、西園寺は結城さんがいらっしゃると非常に機嫌が良いので助かります。仕事もいつもの倍のスピードでこなしますしーーただ」

 磨かれた革靴が立ち止まる。

「西園寺はグループを牽引する立場です。多少の火遊びならば目を瞑りますが、色恋に溺れるなどあってはならないのです」

 ピンと伸ばされた背筋は大企業を支える矜持で威圧感を放つ。

 坂口さんは間違った事は言っていない、言っていないが頷けなかった。

 すると彼は振り向き、丁寧に釘を刺す。

「私は結城さんの為を思い進言しているのですよ。西園寺に近付く目的があるのでしたらーーお話してくれませんか?」

 胸ポケットから写真を一枚取り出した。