「ーーっ」

 即興の作り話であろうと、彼の物語に自分が登場するのが嬉しかった。

「あ、私、あの、泣いてませんよ! これは雨ですので……その」

 薄暗くて見えなくとも言っておく。

「分かりました。落ちないよう掴まっていて下さいね」 

 ポンポンとあやすよう背中を擦られ、西園寺氏が言った通り、私は寂しかったんだと思い知る。

「私を見付けて下さり、ありがとうございます」

 周囲の音で聞こえないボリュームで告げて。

「どういたしまして。僕は貴女しか探していませんけどね」

 西園寺氏がそう返した気がした。



 部屋に案内されるなり浴室へ直行。

「僕はここから出ていますので、ゆっくり身体を温めて」

 ここからとはもちろん入浴スペースではない。西園寺氏は別の部屋でシャワーを浴びるそう。

「……すごい設備」

 ゲストをいつでも招けるよう整えられており私みたいな、それも濡れ鼠が立ち入ってよいものか視線をさまよわす。

 酷い有様が鏡へ映し出され、ブルッと寒気に襲われる。ドレスもメイクも台無しだ。それに彼のスーツも駄目にしてしまった。

 肌に張り付く生地をつまみ、ふと西園寺さんの逞しいスタイルが過る。スイミング指導をした時に鍛えているのは分かったが、私を抱えての移動に全く重心がぶれていなかった。