(これほど大きな船だもの、出入り口が一つとは限らない。他にあるかもしれない)

 蹲って、さめざめ泣いて悲観するのは簡単。大切な人に無理をさせてまで助けられたくないなら、強風にあおられ吹き飛ばされそうでも一歩ずつ進まなきゃ。

 私には足がある。ピンヒールを脱ぎ捨て四つん這いで這うと、まさに手探りて探索した。

 容赦なく注ぐ雨に五感を削られる中、甲板の手摺り越しに一台の自動車が停車しているのが見える。
 ハイビームでおぼろげに浮かび上がる黄色のボディーは修司の愛車だ。

「修司ぃ!」

 仮に晴れていようが、この位置からじゃ声は届かないだろう。それでも叫ばずにはいられず大きく手を振ってみる。

「修司ーーあ、花梨ちゃん」

 手摺りの前で膝を立ててアピールするうち、バトラーに肩を抱かれる彼女が現れた。
 修司は妹を乗せるとハンドルをすぐ握り直し、バトラーと会話するでなく車を発進させる。

「……え」

 あまりの早業で呆然としてしまう。

 別に置いていかれた事に腹は立たないし、むしろ花梨ちゃんが家へ帰れてホッとした。

 こうして身を持って嵐を体感している分、これ以上ひどくなれば帰宅困難になるのは分かる。修司だってギリギリのタイミングで迎えに来たに違いない。

 まさか二人だって私が甲板に居るなんて考えつかないだろうし。

「うん、これでいいんだよ」

 呟いた時、背後で扉が開く気配がした。