私はドレスのスリットに構わず踏ん張り、辺りを見回す。すると甲板へ続く矢印が目に入る。

 こんな嵐の夜に甲板に出るなどあり得ない、そもそも解放されていないかも。

(だけど、このままじゃーー)

 腕力ではどうしたって敵わないので一旦力を抜く。相手がつんのめった隙を狙い、脇を擦り抜ける。途中、西園寺氏のハンカチも取り返すのも忘れない。

「おい、何処に行くんだ! そっちは!」

 幸いと表現してよいか謎だが扉は施錠されておらず、風の抵抗を感じながら開くと男性の忠告が聞こえなくなる。

 全身が一気に濡れ、荒々しい海が目下に広がった。もちろん私以外の姿はなく、雨風を凌げる施設だってない。

 構わず扉を締め、耳をつけ男性がここまで追いかけて来ないか探るーーが、よく聞こえなかった。ドアノブを握り締めて備える。

「……はぁ」

 たった数分がとても長く感じられ、冷え切った身体は溜息でさえ温かく感じた。
 ザンザンッ、波が甲板を叩き、私を追い出そうとしているみたい。

「? あれ、開かない?」

 ここでノブを回してみるが反応がない。かじかむ指にしっかり力を入れて回すが開かなかった。

「まさか内側から鍵を? 嘘でしょ」

 締め出せばどうなるのかすら見失う相手の判断力に絶望し、座り込む。拳を作り扉を叩いてみるが効果は望めないだろう。