「私一人じゃ来ないかも知れないけど、奈美先輩が一緒なら絶対に来ます! 兄貴は先輩の為なら。ね? 兄貴を呼びましょう?」

「駄目、絶対に。病院には私の母も居るの」

 私の声が花梨ちゃんの混乱へ突き刺さるのが分かった。

「ご、ごめんなさい」

 花梨ちゃんはすぐ謝罪してくれる。

「ううん、分かってくれたならいい。お水を貰いつつ、帰りの車を手配してくるね。花梨ちゃんはここから動かないで待っていてくれる?」

 きちんと待ち合わせ場所を決めないと足が保たない旨を付け加え、笑顔も添えておく。

「奈美先輩、怒ってないんですか?」

「怒るというよりびっくりしてる。どうしてあんな事をしたんだろうって」

「それは……」

 口ごもり、涙を溜めている。

「言いたくない?」

「はい、今は、言いたくないです。帰ったらちゃんと話します」

「そう、じゃあ今は何も聞かない」

 花梨ちゃんが訳もなくあんな真似をするとは思えない。そして西園寺氏が花梨ちゃんに何かするとも考え難かった。

 どちらの意見も聞かないことで中立の立場を守ろうとするのは、西園寺氏と朝比奈兄妹の間に関わりがあるのを確かめたくないからかもしれない。

 もしも私が尋ねてしまえば、これまで伏せていたカードが捲られる気がする。

 オープンされたカードを順番に並べていくと皆を傷付けてしまいそうで。

 私のこの手の予感は鋭い。