射抜くみたいに睨まれ、口をつむぐ。
 
 何を言っても彼を怒らせてしまうだろう、本能的に気取る。

「ーー取り乱しました、すいません。僕は着替えてきますので、結城さんは朝比奈さんのところへ行ってあげて下さい」

 通行人の目もあるうえ、パーティー主催者が廊下でいつまでも無駄話はしていられない。西園寺氏のその言葉に控えていた秘書が現れ、別室へ誘導していく。

 どうやら秘書の男性はこれまでの流れを見守っていたらしい。西園寺氏が振り返らない代わり会釈を何度もしてくれ、申し訳なさそうな表情へ会釈をし返せば、床に落ちたハンカチに気付く。
 拾ったはいいものの、追いかけて渡す勇気など湧いてくるはずもない。

「はぁ」

 横殴りの雨が側の窓を叩く傍らで息を吐いた。豪華客船は揺れもせず、嵐の気配に怯えてもいない。
 一方、私は不安に襲われ肩を抱く。西園寺氏に掴まれた余韻が残り、まだじんわり熱かった。

(あの日を思い出すから嵐は怖い)

 花梨ちゃんも心細い思いをしているに違いない。

 私は西園寺氏とは逆方向へ足を進めた。