ドレスの裾をつまみ、滑らかな手触りを確かめる。こういった物に詳しくなくとも纏うと価値が推し量れた。

「お姫様なんて、私らしくないですけど」

「そんな訳ないですよ、貴女は僕のお姫様ですから」

「はは、お上手ですね」

「貴女相手にお世辞が言える程、余裕はないのてすが。どうしたら受け止めて貰えるのでしょう」

「疑ってなどいません。ファンだと言ってくれ、パーティーにまでお呼ばれできて光栄です」

 私達は元アーティスティックスイミング選手とファン、一介のインストラクターと御曹司、関係性をしっかり線引きする。

 髪を耳にかける仕草で西園寺氏の指先からも離れようとしたーーが。

「やはり結城さんは覚えてない?」

 紳士らしからぬ所作で私を繋ぎ止めた。

「え、あの、西園寺さん? 痛いんですが……離して下さい」

 両肩を掴まれ上下に揺さぶられると、碧色のドレスはよれて波立つ。

「覚えてないとは? 私はまた何か失念しているのでしょうか?」

「……朝比奈さんとお話は?」

「朝比奈?」

「彼女や修司君と僕の話をしました?」

 西園寺氏の口から修司の名が出てきてポカンとしてしまう。

「修司を知ってるんですか?」

「彼とお付き合いしていると伺いました」

「いやいや、私達はーー」

「結婚されたら惣菜屋を開くとか?」

「あの子ったらそんなことまで話したんですね、まったくもう」

 会話のテンポが早く、否定すべき部分がしきれない。西園寺氏は私の返した言葉を処理し終えると不機嫌を隠さなかった。