本来、真っ先に謝罪しなければならなかったのが、彼の振る舞いで上下関係がぼやける。
 私は自らを適切な位置へ下ろすため、謝罪と共に腰を折り曲げた。

「そんなに謝らないで。結城さんが悪いんじゃないだろう?」

「朝比奈は私の後輩です。指導が行き届いてなくて、ご迷惑ばかりお掛けしてすいません」

「だから謝らないでくれる? 今夜は君を友人として招いたんだ。肩肘張らずリラックスして欲しいな」

「だとしても飲み物を掛けるなんてーーお金で済む問題ではないと承知してますが、クリーニング代をお支払いします」

 ここまで語ると唇の前へ人差し指が立てられ、青い瞳がウィンクする。

「つまらない話はよして、もっと有意義に過ごそう、それは駄目?」

「それはーーいいえ、きちんとお詫びしなくては!」

 ふいに甘く強請られ、危うく了承しそうになるも持ちこたえた。

「あはは、貴女は本当に真っ直ぐで、見ていて清々しいな」

 ついにはクスクス笑われる始末。ただし他意はないみたいで何処か嬉しそう、かつ楽しそうで。

 身なりが崩れたせいなのか、完璧な印象は溶け素顔が垣間見える。私は近くでそれを眺めたくなり、無意識のうち見つめていた。