西園寺氏は秘書から耳打ちされ、こちらを見る。横へ流した前髪が目にかかり、青い瞳の全体が覗けない。

 どう考えても飲み物を引っ掛けられ気分が悪いはずなのに、彼から怒りが漏れ伝わってこず戸惑う。

「僕は少し外しますが、皆様は引き続きご歓談をお楽しみ下さいね」

 にこやかに席を外す姿を追おうとすると、花梨ちゃんが止めた。

「あんな人に謝ることなんかないですよ」

 掴んだ手首へ力を込めてくる。

「ねぇ花梨ちゃん、一体何があったの?」

「……先輩には兄貴がいるじゃないですか」

「こんな時に修司の話しないで! 今、修司は関係ないでしょう?」

 花梨ちゃんの話の擦り替えには無理がある。カッとなって修司の名を大声で繰り返し、西園寺氏が驚いたらしく振り返った。

 せっかく事態を穏便におさめようとしてくれる中、目立ったら水の泡じゃないか。私は言ってしまった後で口元を覆う。

「結城さん、こちらへ来て頂けますか?」

 肩を竦めて西園寺氏が手招く。先程は読み取らせなかった怒りを全面に押し出すと顔立ちが整っている分、随分な迫力がある。

「西園寺がこう申しております。お願いできますか? 他のゲストの目もありますし」

 秘書の口添えもあり、これは黙って従うよりない。

「先輩……」

「花梨ちゃんはここから出て、待っていて。いいわね?」