「こんばんは、マーメイドダイバーズの結城です。あいにくの天候で停泊を余儀なくされていると伺ってます。スイミングレッスンを受け付けておりますので、お気軽にご利用下さい」

「船上生活をすると運動不足に陥りがちです。僕も先日レッスンをお願いしました。大変有意義な時間となりましたよ」

 西園寺氏が自身の感想を付け加え、拙いセールスアピールが様になる。

「結城さん、皆さんへ名刺をお渡ししたら?」

「あ、は、はい! あ、でも今夜は前社長の。そういった場では……」

「結城さんは特別だよ。僕は貴女を応援したい、次のお仕事に繋がればいいですね。それでは朝比奈さんにもご挨拶してきます」

「いえ、朝比奈にはお構いなくーーって、行ってしまった」

 引き止める間もなく西園寺氏は踵を返す。そうすると様々な角度から名刺を求める手が伸びてきた。

「あぁ、晴臣君は君のファンであると公言していたな。これまでにもお付き合いがあったのかい?」

「いいえ、今回が初めてです」

 名刺を配れば値踏みする間が生まれる。私を介して西園寺氏に取り入ることが可能か、露骨に算出していた。

「それだけお美しければーーねぇ?」

 とある女性は勘ぐる。私を爪先から頭にかけ観察して隣に立つ女性へ共感を促す。

「彼には想い人がいるとの噂があるのだけれども。そういう方にどうやって気に入られるのかしら?」

 女性は相槌をうち、こうも言う。

「アスリートは旺盛とも言いますしね、何がとは言いませんが」

 西園寺氏に好きな相手がいると明かし、こちらの反応を試している。私が身体を使い、西園寺氏へ取り入ったと決めつけられた。