ーー会いたかったですよ!

 西園寺氏があまりにも青い瞳を輝かせ、宝物でも発見した風に表現するものだから注目を一手に引き受ける羽目となる。

「いや、あの、お招き頂きありがとうございます」

 これが精一杯。猫背になっていくのが自分でも分かった。ドレスとメイク手配のお礼も続けたいところだが、あからさまに聞き耳を立てられてては言い難い。私と西園寺氏の関係を皆で探ろうとしている。

「朝比奈もお邪魔しているのですが」

「あぁ、料理がお口に合えば何より。シェフも腕の振り甲斐があるでしょう」

 高身長の彼は会場を見渡し笑みを足す。柔らかな表現が重ね掛けされると眩しく、ますます直視が叶わない。

「先日は大変失礼しました、申し訳ありませんでした」

 ここは頭を下げ、俯きを維持することにした。

「気にしてないよ、彼女が元気ならそれでいい。それとも僕が体調不良者に腹を立てる了見の狭い男だと?」

「そ、そんな、とんでもない、私は……」

 居心地がすごぶる悪い。

「あれって確かーー結城奈美じゃないか?」

 更に誰かが私の素性に勘付く。この状況で母の件など持ち出せそうもない、クラッチバッグを強く握り締める。

「あぁ、ご紹介しましょう。こちらは結城奈美さん。アーティスティックスイミング選手でいらしたのは皆様ご存知ですよね」

 西園寺氏は私の隣に並び、背にそっと手を添えてきた。それからコソッと助言を囁く。

「ここはマーメイドダイバーズを宣伝するチャンスです。オーナーもお喜びになるのでは?」

 私個人は紹介などしてくれなくていいが、確かに会社からしたら絶好の機会だ。