(さてと私は)

 花梨ちゃんが夢中になっている間に西園寺氏を探す。と言っても人が一際集まっている箇所、その中心に彼は居るだろう。まぁ、察しはつく。

(よし! 行くぞ)

 シャンパンを一気に煽って景気付け、集団へ踏み入れた。

『本当に晴臣さんはしっかりしてらっしゃる、お父様も安心できますな』

『海外留学のご経験もあるとか? やはり知見が広いのは両親の教育の賜物ですね』

『西園寺グループの未来は明るいですよ』

 西園寺氏への称賛があちらこちらから聞こえ、明らかに擦り寄る声音もある中、爽やかな切り返しがされる。

「ありがとうございます。今夜の主役が直にやってきますので、是非父にも聞かせて下さい」

 次期社長とコネクションを築いておきたいのはビジネスとして道理。けれどこのクルーズは勇退式を兼ねており、西園寺氏の言葉はそこを忘れないで欲しいと強く含んだ。

「……あぁ! 結城さん! 良かった、いらしてくれたんですね」

 そして取り囲む人々と一定の距離を置いたことで、西園寺氏は私を見付けた。失礼、失礼と会釈をしながら掻き分け、私の前へやってくると微笑む。

「来てくれてありがとう。会いたかったですよ!」