続けて、んぱっんぱっとリップを伸ばす。

「私、決めたんです」

「何を?」

「奈美先輩を守るって」

「守る? 誰から?」

「悪い魔法使いからです」

 テンポ良く会話は進むが、意図は掴めない。

「念の為に確認するけど悪い魔法使いって西園寺さんの事? あの人はどう考えても王子様キャラでしょ? 花梨ちゃんだってそうーー」

「言ってません! あはっ、先輩の聞き間違いじゃないですか?」

 あまりにもな突っぱね方にそれ以上言えなかった。
 西園寺氏の魔法から覚めた花梨ちゃんへ背を向け、クラッチバッグに携帯やハンカチ、それから母の若い頃の写真を忍ばせる。
 母が持つ“人魚の涙”は家中探しても見当たらず、どこにあるのか分からない。

(西園寺氏が悪い魔法使いであって欲しいくらい。その方が交渉を持ち掛けやすく、罪悪感も伴わないもの)

「行きましょう」

 使えるツテは利用してやるという透明の仮面をつけて、私は会場へ向かう。