翌日、台風は進路を変え上陸しなかった。 

 私と晴臣さんは朝比奈兄妹が待つ病院へやってくる。手を繋いで登場する私達に二人は悟った顔付きをし、着席を促す。

「こうして話すのも最後かも知れねぇから、長机と椅子を倉庫から出したわ」

 空き病室に話し合いの場を設けた修司。花梨ちゃんから“人魚の涙”を紛失した旨を聞かされたのだろうか。いきなり食って掛かったりしない。

「奈美、傷はどうだ?」

「え、あ、うん。平気」

「そりゃ良かった。化膿止めと痛み止め、ちゃんと飲めよ」

「うん」

 花梨ちゃんは俯き、会話に加わろうとしなかった。開口一番、彼女の謝罪が聞けるかもと期待したが甘かったみたい。

「先程、これが最後と言いましたが何故ですか?」

 晴臣さんが本題を切り出す。

「何故って? 西園寺は俺等が奈美にした事、知ってるんだろう?」

「えぇ、まず花梨さんからの謝罪が先だと考えます」

 花梨ちゃんがビクリッと動揺する。

「この際“人魚の涙”の紛失は目を瞑ります。しかし、それを捜索してる最中に奈美は負傷しました。僕はその点について説明と謝罪をお願いしたい」

 躊躇せず、言い放つ。

「いいのかよ、あんな高そうなもんを無くしても。流石は御曹司だなぁ」

「修司! 失礼よ! 晴臣さんがせっかく不問にしてくれるって言ったのに!」