「花梨さんが怪我で競泳選手の道を諦めなければならなかったと聞いた。今更だが僕は彼女と向き合おうと考えているよ。どうか奈美も真実を曲げないでくれ」

「で、でも、晴臣さん、私は」

「今こそチャンスじゃないか? すぐでなくたっていい、奈美、島を出よう。僕と一緒に行こう」

「ーー私でいいの?」

「奈美じゃなきゃ意味がない」

 私の手を取り薬指へ唇を寄せた。

「“人魚の涙”が無くなろうと貴女を嫌ったりしないさ、僕には本物がある。だからお願いして、私をここから連れ出してって」

「っ、私、私」

 臆病な私は願いを言葉に変換しづらく言い淀む。

「焦らなくていい、ゆっくりでいい、深呼吸して」

 ここで息を吸い、吐く。

「修司や奈美ちゃんに申し訳ないって、ずっと、ずっと思ってきて、このまま島の観光業に携わり暮らしていくのが償いになると信じてました」

「うん、それで?」

「晴臣さんと会い、惹かれていくのが怖かった。晴臣さんを好きになったら幼馴染の二人からどう思われるんだろうって。裏切り者扱いをされ悲しかった。悲しかったのに」

 晴臣さんを見詰める。あぁ、私はこの人と共にありたいと強く願う。住み慣れた海を離れればどんな困難が待っているか分からない、それでもいい。

「晴臣さんを諦められない、晴臣さんが好きなの。お願い、あなたと一緒に連れて行って!」

 私から贈ったキスに彼はすぐさま応じた。