暴れたりするつもりがなくても情緒の天秤がマイナスへ傾き、サイドテーブルに置いた諸々を近寄らないでと投げてしまう。

「奈美、落ち着いて話をしようか」

 彼に当てるつもりはないが、あちらも避ける気はないらしい。ベッドに片足を乗せ、また抱き締めようとしてくる。

 ついに投げる物がなくなったところで頭から布団をかぶせられ、その上からギュッと囲む。

「警戒心をあらわにする猫はこうして捕まえるといいって本で読んだんだ。あんな目に遭えば怖くなって当然。僕で良ければ気が済むまで引っ掻いていいから、顔をしっかり見せてくれないかい? まだ貴女の無事をしっかり確かめられてない」

 布団の中で私は膝を抱えたまま、返事をしない。“人魚の涙”を紛失した件をどう話せばよいのやら。

「ーー私、みんなに酷い事をしてしまって、本当に合わせる顔がないから、ごめんなさい」

「嫌だ、許さない。勝手に船を降りて連絡の一本もくれなかった。僕は怒っている。顔を出しての謝罪を要求する」

 作戦を変更し、拗ねた声で私を誘う。

「そ、それは、その、いわゆるワンナイトなのかと」

「ワンナイトって……まさか遊びって意味? 僕が奈美を? それとも貴女が僕を?」

「私が晴臣さんをもて遊ぶはずありません!」

「僕だって同じだよ! 何故、貴女を一夜で手放さなければいけない?」

 布団を一緒のタイミングで払い、視線をぶつけ合った。双方譲らない構えだ。