彼を見送ったのち病室へ戻る。ここは先日まで奈美の母親が使用していた。よもや彼女も同じベッドに寝かされるとは、誰ひとり予想だにしなかったであろう。

「奈美」

 命に別状はないものの、奈美は足首に深い切り傷を負っていた。漂流物で傷付けた可能性が高いらしい。

 数針も縫わせる危険物が漂うとなれば、西園寺グループで進める島の自然保護計画の前倒しを検討しないと。ひょっとしたら奈美はこの地を煩わしく思っているかもしれないが、僕の愛した女性が育まれた環境を守りたい。

 ベッドの縁へ腰掛け、髪を梳く。塩水にさらされ指通りが悪いが、やはり美しい黒髪。

「貴女がアーティスティックスイミング選手としてテレビに出てくれ、とても嬉しかった。学生の身分じゃ、なかなか島を訪ねる事が出来ないからね」

 世間ではポーカーフェイスやクールビューティーと言われる奈美。切れ長な目元、あまり語らない様子がそういう印象を与えるのかもしれない。

 実際の彼女は融通が利かない頑固な一面を持ち、泣き虫で寂しがり屋。そして笑うと可愛らしい女性なのだ。

 別に素顔の奈美を皆に知って欲しい訳じゃなく、僕は彼女にありのまま生きて欲しいだけ。

「かつて貴女がこの青い目を好きだって認めてくれたよう、僕も奈美のありのままを受け止めたいんだ」