「あの事故が原因で花梨は競泳が出来なくなり、奈美もあんまり笑わなくなった! 全部、お前のせいだ!」

「え?」

「御曹司だか何だか知らないが、お前が悠々自適に暮らしてる最中、こっちはずっと後遺症に悩まされてた! お願いだからもう姿を見せないでくれ、頼むよ、この通り!」

 修司君も頭を下げてきて、腰を深すぎるくらい曲げた。

「花梨さんが競泳を出来なくなったなんてーー聞いてないです。軽症だったとしか。だから僕は翌朝には帰ってしまい……」

「もちろん元は花梨の暴走が原因だっていうのは分かってるよ。だからうちの両親はお前に話さなかったんだ。けどさ、再会したら恨まないでいられねぇだろ? 奈美までこんな目に遭って、どうすりゃいいんだ」

 壁を伝い蹲り、修司君はかぶりを振る。白衣が折れた翼みたいに床へ垂れていた。

「嵐が来るって知っていたはずなのに、奈美は何故あの場所に?」

「ーー奈美にさ、言ってやったよ。俺と花梨を裏切るんだなって」

「なっ、どうしてそんな酷い言い方をしたんですか?」

 彼女は自暴自棄になり海に居たのだろうか? 確かに母親の様態が悪化して気落ちをしているだろうが、僕には信じられない。

「修司君は婚約者でしょう? 愛している女性を泣かせる真似、僕ならしない」

「奈美が悪い、逃げ出そうとするから」