奈美を修司君が勤める病院へ運び込み、適切な処置がなされる。

 彼はずぶ濡れで意識を失った姿を診て最初こそ震えていたが、医師としての使命感が勝ったのだろうか。手当てを終えた奈美は寝息を立てていた。

「ありがとう」

「は、別にお前に礼を言われる筋合いはない」

「いやいや、お風呂も貸して貰ったし、着替えまで」

「……お前、嫌味なくらい手足が長いんだな。丈が足りてねぇ」

 修司君はくいっと顎で病室からの退出を指示し、廊下へ出た。夜の病院は独特な雰囲気を醸し出し、アルコールの臭いがする。

 ガタガタ窓枠は雨と風に叩かれ揺れて、僕等の空気感を刺激した。

「修司君に会ったら言いたい件がたくさんあったのになぁ、奈美が無事ならどうでも良くなりました」

「はぁ、俺はそもそもお前と会いたくなかったよ。お前に言いたい事、俺はどうでも良くないからな!」

 朝比奈兄妹に敬遠される理由に心当たりがある。
 すぅ、と修司君が息を吸込む。

「お前のせいで花梨は事故に遭ったんだ。あの時の傷がやっと癒えていく所で、戻ってくるんじゃねぇよ! しかも今度は奈美まで。疫病神か?」

 修司くんは壁側、僕はその正面で対峙した。

「妹の花梨さんには本当に申し訳ない事をしてしまいました。謝って済む問題ではありませんが、すいませんでした」

 背後で稲光が起こり、頭を下げる影が彼の足元へ伸びる。修司くんの靴がそれを踏み締めた。