ザー、ザー、ザー、ノイズみたいな雨が降る。

 辺りはすっかり暗くなっており、私は“人魚の涙”を探していた。まともな照明もないうえ嵐の気配が近付く。

 引き返さなくてはと頭で分かっていても意識がここから離れたがらない。

(“人魚の涙”を無くしたなんて、どう謝ればいいのか)

 装飾品としての価値はもちろん、付随する思い出の補償など出来なるはずなくて。取り返しがつかない事態に大声で泣いてしまいたくなる。

 こんな無理な捜索を晴臣さんが喜ぶはずないと承知しつつ、波消しブロックの間を一つひとつ覗き込む。

 どの辺りへ投げられたのか正確な位置を判断するのは困難で、まさに手探り状態。台風接近に伴うサイレンが響く中、一縷の望みを託す。

(修司や花梨ちゃんをあんなに傷付けて……私は何をしているの?)

 荒ぶる波と同調し、寄せては返す罪悪感。いっそ晴臣さんを思い出さなければ良かったのかと過ぎりかけ、彼の青い瞳が浮かぶ。

(ごめんなさい、この気持ちはもう忘れられないよ)

 記憶が欠けていたとも気付かない生活は確かに平和ではあった。だけどーー。

 その時、大きな波が足元をさらう。

「ーーっ!」

 私は悲鳴を上げる間もなくバランスを崩し、倒れる。そのままズルズルと真っ暗な海へ引きずり込まれる恐怖が芽生え、その人の名を呼ばずにいられない。