長い手足を折り畳む。小さく小さく、まるで存在を隠すように。

「僕は、僕に迷子なんです。けれど誰も探してくれない」

「私が探してあげるよ!」

 私は咄嗟に口走った。勢いよく彼へ姿勢を傾け、伝える。

「あなたの事情は私にはよく分からない、ごめん。でも、あなたが迷子になったら探す、見付けてあげたい!」

「……」

 青い目が地球がみたいに丸くなり、ポタポタ涙を流す。ずっと泣くのを我慢していたのだろう、いったん溢れると止まらない。

 H・Rと刺繍されたハンカチでそっと拭う。

「今日初めて会ったばかりなのに、あなたには泣いて欲しくないのーーおかしいよね?」

「おかしくなんか、ない、です。ありがとう、ありがとう」

 私の指先へ擦り寄り、ふわりと身体を包む。時間にして数秒の抱擁以降、彼の事しか考えられなくなる。

「った!」

 シャツのボタンに髪が絡まってしまった。

「あっ、ごめん! すぐに解きますね。じっとしていて」

 ドキドキして首を横に振れば振った分、絡まっていく。

「いい、いい、切っちゃおう。この体勢を見られたら恥ずかしい」

「駄目! こんな綺麗な髪なんですから!」

 瞳を褒めたお返しか、母譲りの黒髮を褒めてきた。

 最低限の手入れしかせず、チャームポイントとカウントしていない箇所を彼は慎重に扱う。

 口でボタンをちぎり、毛先を解放する。その仕草にお腹の底がズンッとした。

「伸ばさないんですか?」

「え、まぁ、楽だし。すぐ乾く」

「そうですね」

 髪を伸ばした方がいいとは言われない。それが何だか悔しくて。

「伸ばしてみようかな」

 宣言したその日の夜。あの事故が起きた。