「H・Yはあなたのイニシャル?」

「事情があり母方の名字を刺繍しました」

「Yは結城? それでお母さんと?」

「はい、ただ僕の母親と君のお母様には全く面識がなく、遠縁でもありません」

「そ、そうなんだ。はは、いきなり親戚ですって言われても困るだろうな。あなたはお母と島に?」

 母は結婚し結城の姓となり、島で結城という名字は珍しくない。
 やや間があって返事がされた。

「母は僕が幼い頃、亡くなったそうです。病弱な人で入退院を繰り返していたので、記憶は無いのですが。
 父が嘘をついていて、母はまだ生きてるんしゃないかーーって、ごめん、暗い話をしてしまったな」

 こんな時、修司なら気の利いた言葉で励ませ、花梨ちゃんは持ち前の明るさで元気を分け与えるだろう。
 対して私は無言でおにぎりを渡すくらいしか思い付かなかった。

「いただきます」

 彼はきちんと体育座りし、頬張る。一口、二口と食べ進めるうち鼻をすする音が交じる。

「……私ね、あなたの目が好き。青い海みたい」

「え?」

 修司等を眺めたまま告げてみる。きっと泣き顔を見られたくないだろうから。

「僕の、目がキレイ?」

「うん、とっても。最初に見た瞬間、吸い込まれそうだったもの」

「僕は嫌いです。この目のせいで自分が何者か分からなくなって、苦しいんだ」