「それでーーお菓子を貰っても?」

「え、あ、うん。どうぞ」

 思わず差し出してしまった。

「お、おい! 奈美、なんで勝手に!」

「だって、かわいそ……」

 半分以上出かけた単語を切る。子供の嗅覚は鋭く、彼が裕福であっても幸福でないと嗅ぎ分けたのだ。

「では、いただきます。お腹が空いてたんですよ」

「なんだよ、昼飯食ってねぇのか? 奈美、おにぎりがあっただろう?」

「修司が帰りに食べる分しか」

「こいつにあげてくれ。花梨、俺達はもうひと泳ぎしようぜ!」

 照れくさいのか、修司は言うなり再び海へ。

「あたしの泳ぎ、見ていて下さいね」

 花梨ちゃんもおすましして続く。残された私はリュックからお弁当を出す。

「食べますか? 具が梅干しですけど、それで良ければどうぞ」

「ーーいいの?」

 こくん、頷く。

「あっちの木陰で食べようよ、ここは水しぶきがかかっちゃう」

 それから直射日光も避け移動する。砂浜を踏み固める感覚がやけに鮮明で、私は妙に緊張しているのだと気付く。

「君はここへ座って」

 彼はハンカチを敷き、私を隣へ座らせようとした。

「座ってって、ハンカチが……」

「構わないよ」

 と返されても、はいそうですかとならない。レジャーシート代わりにするにはハンカチは上質で。
 前かがみになり刺繍が施された生地を覗き、拾う。