水質のよい海中で手足を広げると世界を抱き締めている気分になれる。程よい水温が身体の熱を払い、もっと音と光を遮断した奥へと足を漕いでいく。

 島育ちはスイミングスクールへ通わなくとも泳ぎが上手くなり、水との付き合い方を肌感覚で学ぶ。触れたら危ない海中生物も知っている。

 泳ぐのが好き? と聞かれれば好きというよりかは当たり前のようなーー自分はひょっとして人魚じゃないかって考えてしまう。当然、そんな思い上がりを誰にも話さないけれども。

 ただ実際、島に人魚伝説が残っていて。嵐の夜、若い男が助けられる内容は有名な物語と似ているが、大きく異なる部分があった。
 
 ーー人魚は島の娘なのだ。

「はぁっ!」

 海面へ頭を出す。

「おーい奈美、菓子食べようぜ」

 二人はすでに上がっており、おやつを食べる支度を整える。

「食べてても良かったのに。それか呼んでくれれば」

「奈美ちゃんが泳いでるのを見ているの、好きなの。ね? お兄ちゃん」

「はは、奈美は本当に気持ちよく泳ぐからな。ストップが掛けにくいけど、放っておくと延々と海の中にいそうだ」

 小袋が五連繋がったチップスは三人の好物。泳いだ後、食べるのがまた格別。

「それじゃあ、誰が二つ食べられるかジャンケンね」

 バスタオルで身体を包み、恒例のじゃんけんを促す。濡れたままの髪から滴を落とし、振りかぶった。

「じゃんけんーー」

 ポンッで4つの手が並ぶ。

「美味しそうだね、僕にも一つくれないかな?」