目を閉じれば記憶が補完されていく。

 今から数年前、私は晴臣さんと出逢う。最初に彼へ恋をしたのは花梨ちゃんだったよね。



「え? 青い目をした人?」

「うん、さっき海の方へ歩いていくの見たんだぁ。奈美ちゃんが読んでくれた本に出てきた王子様みたい」

 私達の両親は共働き、夏休みは幼馴染三人で過ごす。うっとりする花梨ちゃんを横目に私はカレーを掻き混ぜ、鍋を甘口と辛口に分ける。大人達の分も作っておくのだ。

 料理は嫌いじゃなかった。みんなに美味しい、美味しいと食べてもらえるし、むしろ島に他の娯楽がない。

 これから昼食を食べたらまた海へ行く。この時期は観光客が多いが、そこは地元の利。マップに載っていない穴場を熟知しているから。

「おーいい匂い、今日はカレーか! やったぜ!」

 おじさんの手伝いを終えた修司がやってきた。

「おかえり! どうだった?」

「大漁、大漁! 嵐の前は釣れるって親父の言った通り」

「そういえば台風が来てるって言ってたね」

 漁業が盛んな島は天候と密接な暮らしをする。幼い私達も海の怖さを叩き込まれ、注意報が発令されたら近付かないと口を揃えた。