花梨ちゃんの足は修司と私を避け、海岸方面へ進路をとる。

「花梨ちゃん!」

「放っておけ! 花梨も子供じゃないんだ」

「でも……」

「この状況でお前に追い掛けて来られる方が嫌だろ」

 目を合わせず修司は言う。白衣へ両手を突っ込むと病院の中へ入ってしまった。

 私は遠ざかる花梨ちゃんをそのままにしておけずーー走る。

「来ないで! 一人にしておいて!」

 病院へ続く下り道を疾走しつつ、花梨ちゃんが甲高い声で訴えた。追い掛けてきたのが私だと察したのだろう。

 彼女のランニングフォームは正確で重心がぶれていない。坂の半ばで更に加速する。

「花梨ちゃん、話を聞いて!」

「嫌です! どうせ言い訳でしょう? そんなの聞きたくありません!」

 耳を塞ぐ花梨ちゃん。

「危ないよ、真っ直ぐ前を見て走って!」

「うるさい、うるさい、うるさい! 奈美先輩は私や兄貴なんてどうだっていいんですよね?」

「馬鹿言わないで! いいはずないじゃない!」

 語りを寄せ付けない背中が段々近付く。けれど手を伸ばしても掠らない。

 足に力を入れ、踏み込む。

 私にとって修司も花梨ちゃんも大切な人、かけがえのない幼馴染なんだ。失いたくない。

「待って、花梨ちゃん!」

「西園寺さんを好きにならないで!」

 花梨ちゃんも花梨ちゃんでスピードを緩めない。坂を下りきると膝を抱えて、肩を震わす。少し遅れて私も隣へ並ぶ。

 結局、背中を捉える事は出来なかった。

「お願い、西園寺さんを好きになったりしないで下さい」

 繰り返される。二度目の発言は消え入りそうなボリュームで。