「奈美ちゃん、病院まで送っていこうかい?」

「ううん、大丈夫。自宅へ一度帰って車を持ってくるから」

「遠慮しないで? あの人、仕事が休みなの。家でじっとしてるのが性に合わないんだよ」

 おじさんは漁師、この天候じゃ漁に出られない。仕事一筋の性格を言い当てられて髪を後ろへ撫で付ける。その腕は逞しい。

「おじさん、おばさん、ありがとう。本当に大丈夫だよ。手続きしてお弁当を渡したら、すぐ花梨ちゃんと一緒に戻る」

「ならいいが。海には近付くなよ? 波が既に高いはずだ」

 忠告にしっかり頷き返す。私達も海の強さを体験しているとはいえ、おじさんが誰よりも恐ろしさを味わっているだろう。


 食事を残さず食べ終え、さっそく自宅へ向かった。花梨ちゃんが施錠してくれたお陰で泥棒に入られた形跡は見当たらない。というか犯罪件数が少ないのが島の魅力のひとつ、開けっ放しにしておいても窃盗の被害は無かったかも。

 キッチンは飛び出した状態で保たれており、母が本当にドクターヘリへ乗ったのだと実感。これから修司と話をするが、厳しい見解を聞かされるに違いない。

「ふぅ」

 深呼吸して緊張を逃す。と、食器棚に固定電話機が反射し、緑のランプがチカチカ点滅していた。

『一件のメッセージをお預かりしています』

 抑揚のない機械音声の後、ピーッと鳴る。

『奈美? 西園寺です、西園寺晴臣です』

「は、晴臣さん!」

 声を聞いた途端、私は手にした荷物を放って電話へ縋り付く。