「ちょっと! 返してや!」
背丈、多分180以上はあると思う。
そんな高いやつが片腕をあげてもうたら、私は160もないから、何したってその手元には届かへん。
「勝手に触らんで!」
当時のケータイには、待ち受け画面にロックなんてものはなかった。あったのかもしれんけど、つける習慣なんてなかったから、簡単に中を開かれてしまった。
ポチポチ押されてた。てっきり、連絡帳に自分の情報を入れてるんやと思ってたら──
ブー、ブー、ブー
彼のスーツから聞こえてくる、バイブレーター音。
ミツルは自分のケータイの着信画面を確認してから、すんなり腕を下ろした。
「明日の夜、電話する」
その言葉と共に、返されたケータイ。
電話の発信履歴を開いたら、知らん番号にかけた記録がついてた。
一枚上手。
こういうナンパって、普通は番号やアドレスを交換して終わることが多い。だから、ケータイをポチポチ触られてても、私にはどっか余裕があった。
勝手に登録されても後で消せばええわ、と考えててん。
でも、電話を鳴らされて、こっちの番号を知られてしまうと、これっきりでは済まなくなる。
「ライターはもらっとく。今使ってるコレ、もうすぐ無くなりそうやから」
目的を達成したからか、ライターがないフリをしてたことも平気でバラしてくる。
その飄々とした態度が、気に食わんかった。