「重っ。ゼクシィってめっちゃ分厚いな」

私は雑誌を受け取って、アントの彼女になった。

マコトの口からは絶対出てけえへん言葉を、すんなり口にしたところに惹かれた。

マメに連絡をくれて、会う約束もちゃんと守ってくれる。マコトができへんことを簡単に成し遂げられる人。

この人を選べば私は幸せになれる。そう信じて、過ごしててんけど──

「カナ」

ある日、アントは別の名前で私のことを呼んだ。

「……ご、ごめんっ」

「カナって誰?」

「…………元カノ」

その後の話し合いで、アントには忘れたい人がおることを知った。

長いこと付き合ってたのに遠距離恋愛になって、すれ違いで喧嘩も増えて、それで別れたらしい。

詳しく聞いてると、どうやら私と連絡を取り合うようになってからも、その元カノとは連絡をとってたらしい。

「マイと付き合ってからはもうとってない。ケータイ見てもいい。アドレスももう消すから」

アントは必死に信用を取り戻そうとしてた。

でも、私は「あの七夕の日、アントがほんまに逢いたかったのは元カノのほうなんかも」と考えてしまう。

「ゼクシィまで渡してきたのは、元カノとダメになってヤケになってたからやないんか」と。


数日後、悩んでた私に、幼なじみのムッちゃんは言うた。「マイって自分のことは棚に上げるんやな」って。

「自分かってアントと付き合ってマコトさんを忘れようとしてたやん。そんなマイに、アントの気持ちを疑う資格なんてないと思うけど? そもそも、マイは消してんの? マコトさんの連絡先、まだケータイに入ってんやないん?」

痛いところをつかれた。

アントが元カノの連絡先を消そうとしたとき、私は「そこまでせんでいい」とストップをかけてた。

それは、自分のケータイにも入ってたから。消すことの出来へん連絡先が。