公衆電話からの着信。26日の深夜から、私はケータイを肌身離さず持ち歩いてた。

仕事中は触られへんけど、休憩に入ったらすぐ持つようにしてたし、トイレや風呂場にも持っていってたし、仮眠をとるときもケータイは耳のそばに置いてた。

でも、再びかかってくることはなかった。たぶん、あれはただの気まぐれやったんやと思う。



──30日の夜。

「マイさんお願いします」

チエリのお客さんからダブル指名をもらって、接客してる最中に、ボーイが声をかけてきた。

席を外した私がボーイの側へ行くと、「指名入った」の言葉と共に、そのテーブルへと誘導される。

チエリの席からは見えないテーブルにいたのは、ミツルと彼の友だちやった。

「忘年会の帰り」

「そうなんや。阪南の?」

「そう。……あ、烏龍茶でいい。運転やから」

接客するのはこれで2度目。

周りの友だちは、時々ニヤッと笑いながら、ひとりだけ指名を出したミツルの様子をうかがってた。

でも、途中からは、こっちのことを気にせぇへんようになってる。多分、からかう要素がなかったからやろう。

1度目のときは、キャバ嬢に夢中になってるところを笑われてたミツル。でも、今回の彼は──

「今日も遅いんけ?」

どっしりと腰掛けて、私を見ることなく、よそに目を向けながら話しかけてくる。

「……多分」

私らは数ヵ月、ほぼ毎日一緒に過ごしてきた。

2度目の来店とは言い難いほど、ミツルと私の様子は落ち着いてる。