「さっきまでは泣いてたんだけどねぇ〜」

生まれたての赤ん坊をあやすみたいに、サツはユラユラと適度な揺れを維持しながら状況を説明した。

今朝家を飛び出して早々迷子になっていたらしい。

…後先考えずに飛び出すからこうなるんだろ。

さっそく迷惑掛けやがって。

サツとはあんま顔見知りになりたくねぇってのに!

「あー、そうなんですか。急にいなくなって、心配してたんですよ」

適当に返す。

ここで目つけられても厄介だからな。

「これ持ってて良かったよ〜」

そう言ってサツは1枚の紙切れを俺に差し出す。

…なんだ?

見るとそれは俺と親父の電話番号がメモされたものだった。

親父がいざという時用に女に持たせていたんだろう。

俺もまだスマホ持ってない時、こうして同じものを持たされていたことを思い出す。

「まほちゃん〜、お兄ちゃん迎えに来てくれたよ〜」

「……」

サツにそう声を掛けられるが、女は起きる気配がなさそうだった。

「いっぱい泣いて疲れちゃったのかな…」

いくらサツだからって気、緩みすぎだろ。

脳天気な女め。

それから面倒な手続き諸々を済ませた。

「じゃあね〜、まほちゃん。もう迷子になったらだめだよ〜」

「ん…、ばいばぃ……」

「うん。ばいばーい」